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人間科学部 学術講演会「スウェーデンにおける児童文学の発展」を開催しました

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人間科学部 児童学科では、平成27年10月14日(水)に東京都市大学等々力キャンパスにおきまして、学術講演会を開催いたしました。

アストリッド・リンドグレーンを作者とした児童文学作品「長くつ下のピッピ」(以下、「ピッピ」と省略します)第1巻が出版されてから、70年が経過しました。

本国スウェーデンだけでなく、日本を含む世界中で読み継がれています「ピッピ」誕生70周年を記念し、近現代期におけるスウェーデンの児童文学の発展をテーマにドゥルッケル博士による講演会を開催しました。

博士は、ストックホルム大学で文学博士号を取得したフィンランド生まれのスウェーデン少数民族の方です。日本人の学生たちにとっても聞き取りやすい英語を用いて、美しいと同時に個性的な児童書をパワーポイントスライドとしてスクリーンに映しながら、児童文学の転換点にポイントをおいた話をしてくださいました。内容は以下の通りです。

スウェーデンの児童文学は1940年代1950年代に第1の転換点を迎え、それまでの作品に描かれ続けてきた、森を中心とした自然に密接した生活、従順で素直な子ども像や規制の道徳観に、反旗をひるがすような作品が生まれました。その代表作が1945年に出版された「ピッピ」です。この作品は発表当時、多くの人に好意的に受け入れられた一方で公衆道徳の崩壊という非難も受けました。当時の模範的な少女は外見としてはリボンを髪につけ、性格は従順であったのに対し、「ピッピ」は挑発的で「世界一強い女の子」として自信を持っていたからです。

2回目の転換点は、1960年代でした。左翼思想の影響によりブルジョア主義批判など政治思想が児童文学にも影響し、政治思想と併せて道徳とはなにか、戦争と平和、男女の役割、環境問題、新しい家族のかたち(シングルファーザー等)がテーマとして描かれ始めました。歴史の常として、一つの傾向が生まれると次にそれを打ち消す傾向が生じることがありますが、1980年代には、児童文学における、美しさ、幻想、表現の豊かさが問題視され、過去の作家の作品が再評価されました。

現代のスウェーデンでは、「ピッピ」や「ムーミン」等スウェーデンの代表的作品を、児童書ではなくビデオ、アニメ、マンガで知る子どもも多くいます。1960年代以降、性差、階級、民族、新しい家族のかたちが児童書の中でテーマとして取りあげられ続けています。それと同時に伝統的な作品も視覚文化の一つとして重要視され、読み継がれているのです。

以上のお話を聴き、日本の児童文学もタブーの崩壊(それまで描かれなかった家族の問題や子どもの心の闇)という転換点を1960年代に迎えたことを学んでいた学生から、日本とスウェーデンの児童文学の共通点を学んだという深い満足の声が聞かれました。

また、三木学長から講評として、今回は逐次通訳の方にご協力いただいたが、博士の美しい英語は聞き取りやすく学生たちにも講演の内容が分かりやすかったと思うので、次回は逐次通訳なしで、直接、英語の講演を聞けるように努めてほしいと、学生の更なる英語力向上を期待する旨、お話がありました。

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